口笛の音域

口笛の音域がかなり「高め」であることは皆さんご存知かと思いますが、具体的にどの程度高いのかを定量的に説明できる人は少ないのではないでしょうか。

この記事では口笛の音域について概説するとともに、ギネスに認定された高音世界記録についてもご紹介します。また記事の後半では高音の秘訣を口笛奏者 田所敦さんに伺いました。

口笛の最高音~ギネス記録

口笛にもギネス記録というものが各種存在します。

ギネスの公式ホームページから世界記録検索をすると、以下のリンクで「口笛で最も高い音を出した記録」を見つけることができます(英語)。

『HIGHEST NOTE WHISTLED』
http://www.guinnessworldrecords.jp/world-records/3000/highest-note-whistled

それによると、現在公式に認定されている最高音程記録はアメリカのWalker HarndenさんによるB7 (3951 Hz)ということになっています。

しかし・・・

実はこれにはトリックがあります!

熟練した口笛奏者の多くは実際にこの程度の音域を普段のリサイタルでしばしば利用しているのです。

当然それが最高音域ということではなく、音楽的に実用可能なレベルの音域としてB7がしばしば利用されているのであって、(厳密なピッチコントロールや音色を考慮しないのであれば)実際にはもっと高い音を出すことが出来る奏者はたくさんいます。

しかしながら、「ギネスに申請し公式記録として認定を要求した」奏者は少なく、結果として上記の認定に至っているものと思われます。

口笛の実際の音域

では、より現実的な意味における口笛の音域はどのようなものなのでしょうか?

2004年に世界的な口笛奏者Tanguay Desgagne氏(世界チャンピオン1993, 95, 97, 98)を中心に16名のOrawhistle加入メンバーらによって行われ、現在はOrawhistleのデータベースとして口笛奏者の間で共有されている調査研究資料が非常に良くまとめられていますのでここに紹介したいと思います。

尚、本資料は基本的にOrawhistleの内部資料であり外部への公開は出来ないことになっていますが、今回、くちぶえ音楽院では著作者から許諾を頂く機会に恵まれ(!)、特別に当サイトで日本向けにこの貴重な資料を公開することが出来る運びとなりました(転載禁止)。

*クリックすると高解像度版が別ウィンドウで表示されます

Whistling Range Study

口笛には様々な奏法がありますが、この調査はパッカー奏法(唇をすぼめて吹くもっとも一般的な奏法)について調査されたものです。

この結果によれば、調査対象の16名の奏者の約半数がB7(3951 Hz)を問題なく発音することが出来、一部の奏者においては6000 Hz以上の高音を出すことが出来ることが示されています。

*実用的な音域がG(Good note)、音自体は発音可能であるものの実用性に欠ける音がp、u(poor, unusual note)として示され、黄色が平均的な口笛の最低音、中心音程、最高音を示しています。

従って、ギネス認定の3951 Hzは口笛奏者のレベルとしては突出したものではなく(詳細については奏者ごとに異なりますが)、一般論として、概ね500Hz~4000Hz程度が一般的な奏者における口笛の音域であると覚えておけば間違いないでしょう。

周波数が2倍になることでオクターブは変化しますので、500、1000、2000、4000 Hzとオクターブが移り変わることになり、結果として「口笛の音域は3オクターブ」と理解することが出来るわけです。

さらに詳細な解析を行うと以下のようなグラフを描くことが出来ます。
*縦軸:口笛奏者比率(%)、横軸: 音域(オクターブ数)

Octaves of whistling

これは積み上げ式の解析結果で、今回の被験者の音域の「幅」を表しています。「これが一般的な口笛の音域です」と書いてしまうと大きな語弊があり、あくまでOrawhistleの優秀なメンバーが被験者である点を忘れてはいけないと思いますが、今回の実験の平均(=50%の奏者が達成可能なレベル)は3オクターブの音域であることがここでも示されています。

さらに6.25%(16人の被験者のうち1名)の奏者は4オクターブを超えるレンジを有していることが示されていますが、これは低音ではなく、高音域の拡張によって達成されたものであることが前の表から理解できます。

オカリナ、フルート、ピッコロなど各種楽器との比較も掲載されていますが、口笛がどれほど高い音域であるのかを科学的に示し、さらに音域の広さという口笛の利点についても客観的に表している貴重な資料だと思います。

高音の魔術師:口笛奏者 田所 敦

口笛界において超高音といえば右に出る奏者は居ないと言われるくらい有名な口笛奏者 田所 敦さんにくちぶえ音楽院が取材しました!

田所さんは単に高音が得意なだけでなく、先日日本で行われた国際大会IWC2014において男性部門で3位に入賞するなど、各種大会で優秀な成績を収め、その音楽性の高さにおいても注目を集めている日本を代表する奏者の一人です。

貴重なアドバイスもありますので、是非口笛の高音発音の参考にしてみてください!

鳥鳴響(以下、鳥鳴): 本日はお忙しい中取材にご協力いただきありがとうございます。

田所敦(以下、田所):いつもホームページを拝見しています。こちらこそ宜しくお願いします!

鳥鳴:では早速ですが、田所さんの口笛の音域について教えてください。

田所:発音可能な音域としてはおよそ4オクターブですね。もちろん、音楽的な演奏に利用可能な音域はもっと狭いですが。

鳥鳴:なるほど。田所さんといえば超高音で有名ですが、具体的にはOrawhistleのデータでいうところの、どのあたりまで発音することが可能なのでしょうか?

田所:OWM-14の奏者が突出して高い記録を残されているようですが、本当に調子の良いときであれば私もC9(8368 Hz)辺りまで出すことが出来ます。

鳥鳴:それはすごいですね!!この手の取材においてはしばしば本人がオクターブを勘違いして実際にはC9ではなくC8やC7だったりすることが常なのですが、IWC2014でC8周辺の超高音を披露された田所さんがいうのなら間違いないものと確信します。

田所:ただ低音については実用音域としてはC5以上で、あまり得意ではないんです。どちらかというと、得意な音域が高音に寄っている感じですね。

鳥鳴:では、もう少し突っ込んだ質問をさせてください。高音を出す際に、口の中はどのようになっているのでしょうか?中音域を発音するときとは全く違ったノウハウがあるのでしょうか?

田所:それはないですね。特に、ボーカルにおいて地声と裏声を使い分けるような発音原理上の「切り替え」というものは、私の場合は感じません。くちぶえ音楽院の「音程のとり方」でも解説されているように、低音を出す場合は舌の先端が前歯につかないほど下に来ます。中音域においては舌の先端が前歯に触れていますが、音程を上げるに従って、前歯の先端を超えてついには下の唇の裏に舌の先端が触れる形になります。

鳥鳴:なるほど、その方法だと、全ての音がシームレスに繋がり、急な音色の変化が全音域で発生しないことになりますね。これは音楽的な意味でとても重要だと思います。

田所:そのとおりです。楽に高音を発音出来る特別なテクニックがあるわけではないので、高音についてはとにかく練習して少しずつ音域を広げる努力が大切なんです。

鳥鳴:くちぶえ音楽院をご覧の皆さんに「高音を出す秘訣」を公開していただけませんか?

田所:秘訣ですか!?(笑  音を出す以前に、出すべき音のイメージを頭の中に持てるかどうかが一番大切なことかもしれませんね。電子音でも、調子の良いときの自分の口笛の録音でも良いので、まずは目標とする正確な音程(周波数)を何度も聴いて頭の中に焼き付けてください。音のイメージがしっかり出来ていれば、日々の練習によって実際に音を出すことが出来る日が必ずやってくるはずです!

鳥鳴:大変貴重なアドバイスありがとうございます。音のイメージを持つことの重要性は情感表現等においても同じことがいえそうですね。本日はご協力いただきありがとうございました!

口笛の超高音を聴いてみよう!

インタビューにお答えいただいた田所さんより、以下の動画を頂きましたのでご紹介します。

iPhoneで簡易録音されたものということで若干、ノイズ、高音における波形の歪みが認められますが参考資料としてはとても有意義な内容になっていると思いますので是非ご覧下さい。

尚、動画の制作には一切くちぶえ音楽院は関わっておりません。また、超高音を不快に感じられる可能性、また音響機材保護の観点からも音量には十分ご注意ください。

いかがでしたか? 再生環境によってはうまく音が再生されない場合もあるかと思いますが、グラフィカルな波形により高い周波数が出ている事が理解しやすかったのではないかと思います。

それでは最後に、くちぶえ音楽院が作成したC9(8368 Hz)の電子音を掲載します。この音を実際に音を出す前のイメージ作りにお役立て頂ければ幸いです。この音を安定的に出すことが出来ればギネスに載る可能性は高いです!

*機材保護の観点から意図的に音量を小さめに設定していますが、スピーカー音量の設定にご注意ください

 

*追記:Walker Harnden さんの最高音記録動画(こちら)をくちぶえ音楽院で解析した結果、最高周波数は7875Hzでした。B8が7902 Hz、A#8が7459 Hzなので、およそB8相当の音程ということになります。ギネスの記録ではB7となっていますが、これはおそらく担当した審査員の音響学的知識が乏しく、オクターブをミスジャッジした可能性が高いと思われます。
一方、田所さんの先ほどの動画を解析した結果、最高周波数はなんと9375Hzでした。D9が9397Hz、C#9が8870 Hzなので、およそD9相当の音がでていることになります!
記事をご覧の方で10000Hzの音を口笛のパッカー奏法で出せる方がもしも居ましたらお問い合わせフォームからその旨をご連絡頂けますと幸いです。