タッピング奏法は唇を指先でリズミカルに叩きながら口笛を吹くことにより、高速な音の遷移を可能とする口笛の特殊奏法です。
高速なブレスコントロールやウォーブリングでも類似の表現が可能ですが、質的にそれらとは異なる独特なニュアンスを楽曲に与えることが出来る特徴があります。
記事の後半では、タッピング奏法の第一人者として知られる「くちぶえ吹きのまっちょ」さんを特別ゲストにお迎えし、タッピング奏法の詳細について解説を頂きます。
タッピング奏法を聴いてみよう
タッピング奏法とは何かを理解するために、まずはこちらの動画をご覧ください(くちぶえ吹きのまっちょさんによる実演)。
通常の口笛では実現困難な同一音の連続、すなわち、トレモロ奏法が口笛でも実現できており、さらに、唇を指で叩くことによるノイズ発生も極めて軽微であることが分かると思います。
タッピング奏法の方法
口笛の技術は外見的に分かりづらい場合が大半なのですが、タッピング奏法に限っては動画を見ていただければ大まかな動作はご理解頂けると思います。
しかし実際にやってみると、指の角度や、タイミングなど、意外とコツが必要なことに気が付くはずです。
今回、動画だけでは分からないコツや、タッピング奏法を習熟するためのポイントについて「くちぶえ吹きのまっちょ」さんにお話を伺いました。
叩く位置について詳しく教えてください
私の場合は、上唇の上側中央部分を叩いています。
目安としては、上唇のくぼんでいる部分と考えれば良いでしょう。
タッピング奏法においては、指で唇を叩くことで空気の通る穴(アパチュア)を開閉することによって音を区切っています。
どこを叩けば最もアパチュアの開閉がスムーズになるかを考えた結果、この位置になりました。
しかし、個々によって最適なポイントは微妙に異なりますので、練習の中で自分のベストポジションを見つけて頂ければと思います。
叩く指の動かし方について詳しく教えてください
私は基本的に中指と人差し指を交互に使って唇をタップしています。
中指は指のリーチが長くアパチュア開閉のコントロールがしやすいため、人差し指からではなく、中指から叩き始めるほうが成功しやすいです。
その他に何かコツはありますか?
一つ目の音はタップしないのがコツです。
すなわち、連符の一つ目の音は普通に発音し、二つ目の音から中指→人差し指→中指・・・と交互に叩いて発音します。
一つ目の音からタップしない理由は、最初に音を出すタイミングとタップのタイミングを合わせることが非常に難しいからです。
逆に、音を伸ばしている状態でタップのタイミングを合わせることはさほど難しくありませんので、結果として二音目から叩いたほうが成功率を上げることが出来るのです。
また、指の角度についてですが、ピアノを弾く時と同様、少し指を立てるのがコツです。
ただし、指を立てすぎると上唇に当たる指の表面積が小さくなりすぎてアパチュアのスムースな開閉が困難になる場合があることに注意してください。指先と指の腹の間の部分でタップするのが最適だと思います。
タッピング奏法の魅力について教えてください
練習に取り組みやすいことが最大の魅力であると思います。
ウォーブリングやその他の技術を組み合わせることでも高速な音の遷移は可能ですが、これらの技術をマスターすることは決して容易ではありません。
タッピングももちろん習得に一定の練習が必要ですが、相対的に技術的な敷居は低いように感じます。
口笛の技術としては珍しい「外見的にもやり方が確認できる奏法」なので、技術指導しやすいことも利点の一つであると思います。
また音楽的な意味において、タッピングによって他の奏法では実現困難な音の分離感を演出することが可能となり、既存の口笛表現の幅を拡大出来ることも大きな魅力といえるでしょう。