小暮裕司:口笛世界大会2022優勝

小暮裕司:口笛世界大会2022優勝

2022年10月、神奈川県川崎市で開催された口笛世界大会2022(The 45th World Whistlers Convention 2022)で、見事、口笛世界チャンピオンとなった小暮裕司さんより、優勝者メッセージを寄稿頂きました。

普段は、看護師として医療現場で活躍されているという小暮裕司さん。どのように口笛と出会い、世界チャンピオンにまで登り詰めたのでしょうか。

大変読み応えのある内容となっていますので、是非、ご覧ください。

小暮裕司さんの大会成績
  • 2016年 口笛世界大会 成人男性音源伴奏部門 5位
  • 2018年 口笛世界大会 成人音源伴奏部門 3位
  • 2018年 おおさか口笛音楽コンクール 3位
  • 2022年 口笛世界大会2022 成人音源伴奏部門 優勝

はじめに

 この度、2022年10月7日~9日に行われました第45回 口笛世界大会2022にて優勝という喜ばしい結果を残すことが出来ました。この場をお借りして、口笛音楽の奥深い世界に興味を持たれた方やコンクール等でより高みを目指したい方々に少しでも参考になるよう執筆いたしました。

 拙文にて恐縮ですが、ご一読いただけましたら幸いです。

小暮裕司

口笛世界大会(WWC2022)について

 ここでは簡単に口笛世界大会(以下WWC)の概要について紹介いたします。コンテストのルール等の詳細につきましては公式ウェブサイトをご参照下さい。

 WWCは、隔年で開催される口笛音楽専門の大会です。高い技術を持った口笛奏者が参加されるコンテストはメインイベントの一つではありますが、それだけでなく口笛音楽の普及・音楽性の探求など幅広い理念のもと開催されております。そのため、コンテストに出場されない方はもちろん、口笛を吹けない人や口笛音楽の雰囲気を楽しみたい方でも自由に参加できます。

 世界大会と言われるとちょっと敷居が高い…と思われる方もおられるかもしれませんが、全くそんなことは無く口笛音楽に興味のある方なら誰でも仲間に入れる暖かい世界です。今後のWWCも今年以上に盛り上がることを期待してやみません。

大会を振り返って

 以下では、私が参加致しましたコンテストについて振り返っていきます。

 WWCのコンテストには大きく分けて3つの部門があります。私は今回、成人音源伴奏部門に出場致しました。

  • 予め用意した音源をバックに演奏する「音源伴奏部門」(年代別)。
  • 他の楽器を演奏しながら口笛を吹く「弾き吹き部門」
  • 口笛を生かしたパフォーマンスが求められる「アライドアーツ部門」

 大会初日。私は今回大会より導入された出場時の音源審査においてシード権を勝ち取っており、一次予選は見学となりました。4年ぶりの大会開催とあって、ベテラン勢の方々の気合の入り方はもちろん、新しい口笛奏者の顔ぶれもあり、大賑わいのコンテストとなっておりました。一次審査に参加された出場者のうち二次審査に駒を進めたのは、約2割~3割程度でした。

 大会2日目。本選進出のかかった二次予選が開始です。私自身、4度目のコンテストでさすがに場慣れもしており、十分な準備期間もあった為、あまり緊張せず一発勝負にしては及第点の実力を出し切ることができました。結果は無事通過。ある程度の手ごたえはありましたが、当然名前が呼ばれるまでは分かりません。一番手で名前が呼ばれたときは、ほっと胸をなでおろしました。

 いよいよ本選が開始です。私の出番は同部門の一番手。音楽コンテストに出場経験がある方なら分かるかと思いますが、一般的に一番手は不利になりやすいとされています。どうしても後から聞いた演奏の方が印象に残るからです。しかしながら、審査員は経験・実績豊富な方々。実力さえ出し切れれば公平なジャッジをしていただけると確信しておりましたし、一番手の不利を跳ね返すくらいの圧倒的なパフォーマンスをしよう!という強い意気込みで臨みました。

 演奏を終えた感覚としては、気合の入り過ぎか少し力が入ってしまったため、音の伸びやかさやツヤに欠けてしまいましたが、致命的なミスはなくまとめ上げることができました。その後、客席でその後の出場者様の演奏を聴かせていただきましたが、どの演奏も大変素晴らしく、コンテストがどのような結果に終わるか私自身全く想像がつきませんでした。

 全ての演奏が終わり、ついに入賞者の発表です。成人部門は5位からが入賞となります。5位、4位…と名前を呼ばれていき、2位まで名前を呼ばれなかったときは1位か入賞外かの二拓なので、ここ数年で一番緊張しました。1位で名前を呼ばれたときは、どう反応していいか分からず自分自身もよく覚えていません。気が付けば舞台上でトロフィーを受け取り、少し涙していました。しばらくは優勝したという実感が全く湧かず、舞台上の写真撮影で「優勝者」や「チャンピオン」と呼ばれても、一瞬振り向くのが遅れるほどでした。

 今、改めて振り返ってみると、本格的に優勝を目指して臨んだ初めてのWWCでこのような結果を収めることができ、感無量の一日となりました。

WWC2022で優勝した小暮裕司

口笛音楽との出会い~世界大会への挑戦

 私と音楽との出会いは幼少からでした。母によると、私は物心がつく前からおもちゃのピアノで遊んでいたそうで、小学生の頃にはクラシックピアノを習い始めました。小さいころから平坦な道よりも茨の道の方が好きで、当時のピアノの先生から次にレッスンに使う教本を選ぶ際に、「簡単な方」と「難しい方」のどちらが良いかと聞かれ、「難しい方!」と即答し先生をびっくりさせたそうです。

 学生時代はピアノの練習に励む傍ら、吹奏楽やオーケストラに所属し私のそばにはいつも音楽がありました。一方で、口笛は小学生の頃から何となく簡単な曲が吹けた程度で、当時はちょっとした特技程度でしかありませんでした。

 本格的な口笛音楽との出会いは今から10年ほど前のこと、たまたまテレビ番組で紹介された口笛奏者の演奏を聴き、感銘を受けたことが最初のきっかけです。それから間もなくして、口笛の世界大会の存在を知り、いつか腕試しをしたいと思うようになりました。

 そこから本格的に口笛音楽の世界に足を踏み入れ、様々な技術の獲得に励むようになり、このころから多くの口笛仲間たちとの交流を始めるようになりました。また、技術的にも進歩があり、地元のローカルラジオやちょっとしたイベントでの招待演奏の依頼を頂くようになりました。

 初めての世界大会出場は2016年。当時は腕試しの目的で予選突破できれば上出来くらいに考えていましたが、思いがけず5位入賞という結果となり一層のモチベーションとなりました。これを機に、私はより高みを目指して様々な取り組みをしていきました。

口笛を演奏する小暮裕司

弱点克服のために学んだジャズ

 2016年の世界大会で5位入賞を果たした私ですが、ひとつ大きな弱点がありました。それはクラシック以外の音楽に理解が殆どなかったことです。実際、クラシックのスコアシートでは3位以内の高い評価を頂くことが多かったですが、ポピュラーでは10位近い順位が目立ち大きくスコアを落としていました。純粋なクラシック音楽しか学んで来なかった私にとって、ポピュラーミュージック特有のリズムのノリや楽譜の枠にとらわれない自由な表現といった部分の理解が難しく、この部分が大きな足かせとなっていると考えました。

 そこで、クラシック音楽と対比されることの多いジャズを学ぶことで、その弱点を克服すると同時に、より幅広い音楽性を追求していきました。ジャズは現役のジャズピアニストの先生にレッスンを受け、基礎的なジャズの音楽理論からリズムのノリ、即興演奏といった自由な音楽表現など今まで経験したことのない新しい音楽について理解を深めていきました。

 そうして臨んだ次の世界大会では同部門で3位と結果を出すことができ、一層自信につながりました。このときから、更なる高みを目指して練習するようになり、演奏の技術の鍛錬と音楽性を追求していきました。私生活では数年前に結婚し、我が子の誕生に立ち会う経験もしました。一時期は慣れない育児やコロナ禍での生活の変化から、音楽や口笛としばらく離れてしまった時期もありましたが、それでも音楽はより強い味方として私の元へ戻ってきてくれました。

家族と一緒の小暮裕司

 こうしたライフイベントや様々な経験が、私の音楽性に大きな変化を与えたのは言うまでもありません。今回の世界大会の演奏には、この数年で体験した感情の全てを込めました。技術的にはまだまだかもしれませんし、演奏者のバックグラウンドなどは採点基準には入らないものですが、この優勝は間違いなく私を支えてくれた全ての人がもたらしてくれたものです。本当にありがとうございました。

仲間と共に(小暮裕司)

アートとしての口笛音楽発展を意識した選曲

 私がコンテストで演奏するにあたり、特に意識していることの一つが選曲です。私のコンテストでの選曲にはいくつかのモットーがあります。

  1. 音楽的に世界的な評価が高く、世界大会での演奏にふさわしい曲であること。
  2. 口笛演奏に適した音域、速度、音楽性でありながら、求められる技術が高いこと。
  3. 今まで口笛の大会で演奏されていないこと。

 他にも細かいことはありますが、これらを重要視しています。もちろん、全ての条件に合う曲を見つけるのは簡単ではありませんが、妥協せずに続けたところ私の演奏を楽しみにして下さる方が増えてきてくれました。もちろん、コンテストで勝ち残るためには過去に演奏された実績のある曲を研究することは堅実で優れた作戦です。しかし、私は前述したように茨の道を好むタイプなので、コンテストの点数として多少のリスクは負っても、自分自身も聴衆の皆様も盛り上がるような選曲を常に目指しています。それは、この口笛世界大会が目指す「アートとしての口笛音楽の発展」につながるひとつの要素だと私は信じておりますし、もし思うような結果が出なかったとしても自分にとって最も後悔のない選択だと思うからです。

 その点において、本選のクラシックで演奏した「セザール・フランク作曲 ヴァイオリンソナタ イ長調」は、今までの私の集大成でもあり、最高のパフォーマンスができると確信した一曲です。実は、コンテストとして技術的な点数を取りやすい曲なら他にいくつか候補があったのですが、私はこの曲にすっかり魅せられてしまい、「この曲を大舞台で演奏したい」、「世界中の口笛奏者に知ってもらいたい」という一心で選曲しております。今でも私にとって大切な一曲です。

 また、ポピュラーは世界的ベーシストの中山 英二さんのオリジナル曲「Eiji’s folk song」を演奏しました。この曲はライブで偶然聴いたときに”一聴き惚れ”し、帰ってからもずっと口笛で吹いていたくらい心を打たれたものですが、コンテストの候補には入れられませんでした。演奏するには、楽譜もなければ音源伴奏も手に入らないからです。ところが、しばらくしてからありがたいご縁があり、中山先生本人が演奏指導や音源伴奏の提供をしていただけることになりました。この素晴らしいご縁には感謝しかありません。

 この曲は、先ほどのクラシックとは一転して非常にテクニカルな超難曲です。技術的には今の私ができる限界に近いレベルで、これも一つの大挑戦となりました。猛勉強したとはいえ、まだまだジャズは浅学なため、この曲の魅力をしっかりとお伝え出来たかは分かりませんが、吹き切ったときの満足感はこれ以上無いものでした。これは結果論かもしれませんが、自分が目指す口笛音楽の理想を追求することが、最も良い結果につながるのだと今回の経験から学びました。

スピーチする小暮裕司

おわりに~今後の抱負~

 幼少の頃から始めた音楽がこのような形で花を咲かせることになるとは一昔前までは思いもしませんでしたが、今ではこれが私の一番やりたい音楽の一つの形です。

 これからはこの経験を糧に、一層技術と音楽性を磨き、口笛音楽の奥深さや素晴らしさを多くの人に広める活動をしていけたらと考えております。今後のコンテストにも別部門で出場を続けていく予定ですので、また世界大会の会場でお会いしましょう。もしどこかで見かけましたら気軽に話しかけてください。

 最後になりますが、今までご支援頂きました多くの方々、そしてこの素晴らしい大会の開催・運営に携わられたすべての方々に心からの感謝を表します。お読みいただきありがとうございました。

口笛世界大会:WWC2022 口笛世界大会:WWC2022

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