ウォーブリング奏法は非連続的に音程を変化させることが可能な口笛の奏法です。
連続的にピッチを変化させる「ポルタメント」とは対照的に、階段状の音の変化に特徴があります。
静的ウォーブリングを聴いてみよう
言葉だけでは分かりづらいと思うので、まずはウォーブリング奏法の例を聴いてみてください。
これは後述する「静的ウォーブリング」を利用していますが、ピッチが鋭角に(階段状に)変化していることがお分かり頂けたかと思います。
比較のために、ノーマル奏法で吹くとこんな感じになります。
明らかに聞こえ方が違うことが理解できたと思います。ノーマル奏法ではこのようにピッチを階段状に変化させるためには必ず音の切れ目が発生します。
では次に、全く音の切れ目を発生させないように意識しながらノーマル奏法で同じフレーズを吹いてみます。
先ほどとは違い、音の切れ目こそありませんがピッチの変化が滑らかで、ポルタメントのように音が遷移しています。
以上、3つの例を聞き比べることで、ウォーブリングでしか表現出来ない音楽的ニュアンスがあることが理解できたと思います。
ウォーブリングの種類
ウォーブリングには大別して2つの原理が存在します。
- 静的ウォーブリング
口内の容積(形状や舌の位置)を全く変化させず、息の流速によって異なる倍音を発生させる方法 - 動的ウォーブリング
舌や頬を利用して口内の容積を瞬間的に変化させることによって別の音程へ音を変化させる方法
静的ウォーブリング
トランペットなどの管楽器でも、バルブを全開放した状態で(バルブを全く使わなくても)ド、ソ、ド、ミ・・・と息の使い方だけで音程を変化させることが出来ますが、発音原理上はこれと全く同じです。
口笛においても舌の位置など口の内部の形を全く変える必要なく音程を変化させることが出来るため、ノイズの発生を全く伴わず高速な音の遷移が可能です。
動的ウォーブリング
動的ウォーブリングには様々な種類がありますが、最も一般的な手法は舌を前歯に付けたり離したりする方法です。
すなわち、ノーマル奏法において通常、下の前歯に触れている舌の先端を、前歯に付けたり離したりすることで、一瞬で口内の容積を変化させ、音を変化させます。
動的ウォーブリングでは、倍音の制約無しにかなり自由度の高い音楽表現が可能であるため、装飾音やトリルを口笛で表現する目的の他、高速なパッセージを吹くための技術として広く利用されています。
静的ウォーブリングの方法
ウォーブリング奏法は発音技術的に多くの種類がありますが、以下に紹介する方法は「アタック奏法」に似た原理で空気を頬の内側(歯の外側)にまで意図的に流し込み、口内の空間を通常より大きく確保することで、倍音が生じやすい環境を整えることを基本とする方法です。
そのような状態で普通に口笛を吹いていると、何かの拍子に意図せず音が反転して裏返ってしまうことがあります。
その裏返りを正確にコントロールする技術が静的ウォーブリング奏法の技術そのものなので、音が裏返るきっかけをつかんだら、その音の裏返りを完全にコントロールできるよう反復練習しましょう。
ある程度静的ウォーブリングのコツを掴むと、わざわざ頬の内側に空気を回さなくても、音の裏返りをよりナチュラルにコントロールすることが出来るようになります。
動的ウォーブリングの方法と演奏例
動的ウォーブリングの方法について解説する前に、動的ウォーブリングによる高速な音の遷移を多用した演奏を以下に掲載しますのでまずはご覧ください。
動的ウォーブリングを使わない限りこのような演奏を実現することは難しく、ポルタメントとは全く異なるメリハリの利いた音の変化が感じ取れたことと思います。
「冬の大地」の動画では、舌の先端を下の前歯に付けたり離したりすることを繰り返すことで高速な音の遷移を実現しています。すなわち、高速な音の遷移の間は舌を口の中で忙しく動かしていることになります。
この方法では舌が歯に当たることによるノイズの発生が原理的に避けられない弱みがある一方、静的ウォーブリングよりも技術的に容易で、制御しやすいという利点があります。
一昔前までは各種ウォーブリング奏法は珍しいものでしたが、現在では多くの口笛奏者が利用しており、特に口笛で器楽曲を演奏する上で不可欠な技術となっています。
いつも参考にさせて頂いております。
質問です。動的ウォーブリングについてです。何とか2つの音を行き来することが出来るようになったのですが、「冬の大地」のように3つ以上の音を往復出来ません。他の方がおっしゃるには、舌先ウォーブリングとスロートロックを組み合わせるそうですが、いまいち分かりません。是非ご教示下さい。
下山さんへ
ご訪問・コメントありがとうございます!
動的ウォーブリングについて、言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、結果として「舌の先端を下の前歯に付けたり離したりする」ことにはなるものの、感覚的には、ベロペロと、舌の先を使って、高速で何かを舐めるような感じが近いように思います。
「冬の大地」の演奏においては、滑らかなフレージングを実現するため、スロートロックは組み合わせずに、息を流したまま、動的ウォーブリングで音の切り替えを制御しています。
何かの参考になれば幸いです。
鳥鳴響
教えて下さりありがとうございます。舌が回らず、速く音を切り換えられなかったので舐めるようなイメージで練習してみます。
もう一つ質問させて下さい。
スロートロックを使用していないとのことでしたが、舌を前歯に付け、離し、また付けるときに音は「高→低→高」となると思うのですが、「低→高→更に高」又は「高→低→更に低」とするにはどうすれば良いのでしょうか。
下山さんへ
ご質問ありがとうございます。
>舌を前歯に付け、離し、また付けるときに音は「高→低→高」となると思うのです
はい、基本的にはそのとおりです。
ただ、それぞれの音が明瞭に聞こえるよう、1音1音を、ゆっくり吹いてみると分かると思うのですが、「高」と「低」の音の幅を、自由に変えることが出来ず、「ピロピロ」と高速に音自体は変えられるものの、楽譜どおりの正確な音程で自在に演奏することが難しいことに気付き、そこで行き詰まる奏者が多いように思います。
そこで、一瞬だけ息の流れを喉で止めて、区切って、吹きなおすことで、ポルタメントのようには聞こえないよう工夫されている方も多いですが、それだと音の流れが瞬間的に断絶することになりますので、これでは、冬の大地の流れるような美しいフレージングを活かし切れません。
吹ければよいということではなく、楽曲が持つ音楽性を重視するのであれば、息を一定の流速で、吐き出し続けてメロディーの流れを止めず、舌先だけで、音を自在にコントロールすることが必要となるわけですが、これについては、感覚的、無意識的な要素が多く、私自身も、厳密に、何がどうなっているのかまでを正確に理解し切れていないところがあります。応用的な部分については、座学の理屈ではなく、ひたすら練習して、感覚を掴むことが近道と思いますが、「舌先を高速で動かす」というポイントが習得のヒントになると思います。
頑張ってください!
鳥鳴響