松村祐甫:Global Whistling Championship 2021優勝

口笛奏者 松村祐甫

2021年12月に開催された口笛のグローバルオンラインコンテスト「Global Whistling Championship 2021(GWC2021)」において、見事、口笛世界チャンピオンとなった松村祐甫さんにくちぶえ音楽院が独占インタビューを行いました。

現在は、ドイツのトロッシンゲンにある音楽大学で声楽(バス)を勉強中という松村さん。どのようにして口笛世界チャンピオンにまで上り詰めたのか、その軌跡を伺います。

Biography

経歴

  • 2018年 東京学芸大学大学院 音楽教育専攻 声楽分野 卒業
    (2017 – 2018年 Universität Heidelberg 交換留学)
  • 2022年1月現在 Musikhochschule Trossingen 声楽専攻(ドイツ)

主な大会成績

  • 2015年 第7回おおさか国際くちぶえ音楽コンクール 5位
  • 2020年 Global Whistling Championship 2020 総合4位、審査員賞1位
  • 2021年 Global Whistling Championship 2021 優勝

1. 口笛との出会い

くちぶえ音楽院 鳥鳴響:この度は優勝おめでとうございます!2020年の同大会では惜しくも総合4位(審査員票 1位)という結果でしたが、2021年12月開催のGWC2021で、遂に口笛世界チャンピオンとなりました。今の気持ちをお聞かせください。

口笛奏者 松村祐甫:本日は貴重な機会を頂きありがとうございます。実は、くちぶえ音楽院の優勝者インタビューは以前から拝見しており、いつか、自分も掲載されたいという思いで頑張ってきました。遂に念願のインタビューを受けることが出来、大変光栄に感じています!

ーー松村さんは幼少のころから、口笛が得意だったのでしょうか?

いえ、実は、小学生の頃までは口笛の音を出すことさえ出来ませんでした。

中学校に入学してから吹奏楽部でチューバを吹き始めたのですが、その頃から自然に口笛も吹けるようになり、特に練習した記憶もないのですが、中2の頃には3オクターブの音域を自在に操ることが出来るようにまでなりました。

チューバと口笛は一見、無関係のように感じられるかもしれませんが、実際には、口周辺の筋肉(口輪筋)の使い方や、腹式呼吸など、共通する点が多くあります。はっきりしたことは分かりませんが、チューバの練習が、結果として、口笛が吹けるようになるきっかけとなったように感じています。

松村祐甫

2. 口笛コンテストに応募するも予選落ち

ーーチューバの練習が、口笛上達のきっかけになったというエピソードは、口笛奏者に金管楽器経験者が多いこととも共通していて、とても興味深いですね。当時からコンテストへの出場を意識していたのでしょうか?

友達や親戚から、口笛を褒めてもらう機会が多かったこともあり、口笛が自分の特技であるという自覚はあったのですが、口笛に世界コンテストがあることを当時、知りませんでした。ただ、たまたま見たテレビ番組で、口笛世界チャンピオンの演奏を聴く機会があり、その頃から、コンテストに興味を持つようになりました。実際に、初めて口笛コンテストに応募したのは、大学3年生の時です。

ーー結果はどうでしたか?

惨敗です。口笛の実力には自信があり、10位入賞は狙えるだろうと自負していたのですが、口笛を人前で吹くのは想像以上に難しく、練習では簡単に吹けていたフレーズであっても、コンテスト当日は満足のいく演奏をすることが出来ませんでした。

ーー高い実力を持ちながらも、それを当日発揮することが出来なかったことが敗因だったわけですね。

はい、当時、そのように捉えていました。ただ、その翌年に開催された国際口笛大会では、予選が音源審査で行われたのですが、そこでもまさかの予選落ちという結果でした。集中できる環境で、自分の最大限の実力を収音した音源であっても予選通過することが出来なかったので「実力ならだれにも負けていないが、緊張には弱い」という自己分析は完全な誤りで、実力自体が足りていなかったことに気づかされました。

ーー大会への出場を通して、客観的な自己分析に繋がったわけですね。

その通りです。実際、他の大会出場者の演奏技術は圧倒的で、当時、自分には難しかったウォーブリングと呼ばれる特殊奏法なども、当然のように吹きこなす奏者ばかりであることに衝撃を受けるとともに、世界レベルの口笛の凄さを痛感しました。

3. ボランティア演奏をきっかけとした転機

ーーコンテスト出場を通して、ご自身の実力を客観的に知ることとなったわけですが、どのように受け止められたのでしょうか?

「悔しい」というのが正直な気持ちですが、それと同時に、自分の潜在能力はこんなものではない、次こそは何としても勝ちたい!という思いを一層強くしました。

自分の弱みを知り、勝つための対策を立てるため、プロの口笛奏者のレッスンを受けに行ったのですが、そこで「まずは基礎力をつけたほうが良い。ロングトーンの練習から始め、レパートリーも無理なく吹ける曲を選んでみてはどうか?」との助言を頂きました。当時は難しい楽曲の練習にばかり取り組んでいましたが、それ以降は練習メニューを抜本的に見直し、ロングトーンなどの基礎練習や、ゆっくりとした楽曲の演奏を丁寧に練習するよう心がけるようになりました。

ーー口笛に限ったことではありませんが、基礎力をしっかりと磨くことは大切ですね。当初の課題であった「人前で実力を発揮出来るようになるための対策」は何か取られたのでしょうか?

大学4年の頃に地元のボランティアセンターに登録しました。「口笛演奏」という一風変わった音楽ジャンルということもあり、最初のうちは、それほど多くのご依頼を頂くことはなかったのですが、演奏回数を重ねるごとに徐々にクチコミが広がり、最終的には週1回のペースで、年間50回もの演奏をご依頼いただけるようになりました。

私はもともと引っ込み思案な性格で、人前での演奏に対する苦手意識のようなものがあったのですが、ボランティア演奏を通し、多くのお客様の暖かさに触れることで、人前で演奏することの楽しさを自然と感じられるようになりました。

お客様の中には、事務対応等の運営を自主的に手伝ってくださる方もあり、また、大学の友人にもピアノ伴奏やゲスト出演で多大な協力を頂きました。彼らのサポート無しに年50回もの演奏を実現することは出来なかったので、様々な形で協力してくれた方々や、演奏に足をお運び頂き励ましの言葉を下さったお客様には今でも感謝しています。

ーー周囲の暖かいご支援に恵まれ、当初の課題も克服することが出来たことは大変素晴らしいですね。数多くのボランティア演奏を行う過程で、口笛演奏に対する考え方の変化は何かあったのでしょうか?

はい、人前で演奏する機会が増えることに伴い、口笛演奏に対する意識や考えも少しずつ変化しました。「その音楽表現」は聞き手にとって心地良いか、音程やピッチは正確か、また、選曲が客層に合っているか、といったことを自然に考えるようになりました。

今、振り返ってみると、ボランティア演奏を繰り返し行ったことが「趣味の口笛」から、聞き手を前提とした「口笛奏者としての演奏」への転機になったように思います。

ボランティア演奏を徹底的に行った翌年に出場したコンテストでは、遂に、5位入賞を果たすことが出来ました。

ーー練習方法を変え、場数をこなし、演奏に対する心構えまでを変化させ、遂に勝ち取った入賞ということで、喜びもひとしおだったのではないでしょうか。

これまで積み重ねてきたことが、間違っておらず成果に繋がったという意味で、大変嬉しく感じました。ただ一方で、5位を取れる実力があるのであれば、今後、優勝を狙うことも出来るのではないかという新たな思いを抱くようになりました。

松村祐甫(大学生時代)

4. ドイツへの音楽留学によって変化した音楽観・口笛観

ーーその後、音楽を学ぶためドイツへ留学することになります。ドイツ留学は口笛演奏にどのように影響したのでしょうか?

ドイツでは「口笛奏者」「口笛音楽」に対する認知度が日本に比べ低いこともあり、ドイツで口笛を演奏すると日本とは比べられないほど多くの反響を頂けることが、口笛練習の励みになりました。

また、日本では口笛奏者という存在が一般にもある程度浸透していることもあり、他の口笛奏者を意識した演奏とせざるを得なかったのですが、ドイツではそのようなことが全くないので、他の奏者との差異化や制約を一切意識することなく「自分らしい演奏」に純粋に注力することが出来るようになりました。それによって自身の音楽観、口笛観も大きく変化しました。

ーー現在の松村さんの演奏スタイルは、ドイツ留学を機に確立されたわけですね。

はい。特に「ダイナミクス(音量変化の幅)」と「音楽表現」を強く意識しています。

現在、ドイツの音楽大学では声楽を専攻しているのですが、体内の空間をうまく活用し、声を「共鳴」させることで、ホール全体に響く大きな音を生み出すことが出来ます。この技術を口笛へ応用することで、口先で強く息を吹かなくても、遠くまで届く大きな音を安定して出すことが出来るようになり、実際、マイク無しでも400席規模のホールで口笛を大きく響かせて演奏出来るようになりました。大きな音が出せるようになるほど、小さな音との差が生まれることになるので、これが現在の持ち味の1つである「ダイナミクス」に繋がっています。

また「音楽表現」についてですが、ドイツ留学後は、徹底的な楽譜の分析を事前に行うようになりました。個々の音符を1つのまとまりとしてどう捉え、表現するか、和声の中における各音符の意味付け、理解を行うことで、口笛演奏における音楽表現の幅を拡大することが出来たように感じます。

松村祐甫(ドイツでの演奏)

5. 口笛世界チャンピオン獲得

ーー予選落ちという苦い経験に始まり、ボランティアでの下積み、そして、ドイツ留学での音楽的成長という長年の過程を経て、遂に、GWC2021で口笛世界チャンピオンとなられたわけですが、GWC2021では、予選、決勝、どちらも「声楽曲」を演奏されています。選曲にはどのような意図があったのでしょうか?

GWC2021:松村さんの選曲

  • 予選:Ganymed(ガニュメート、声楽曲)
  • 決勝:Je veux vivre(ロミオとジュリエット 私は夢に生きたい、声楽曲)

コンテストの特性上、「〇〇協奏曲」といった早いパッセージの楽曲を選択し、技術で勝負するという選択もありうると思いますが、それでは自分の持ち味を十分に生かすことは出来ないと考えました。

器楽と異なり、声楽曲は歌うことを前提としたフレージングがなされているので、音の構成が自然で、自分が強みとするダイナミクス、音楽表現を最大限に活かすことが出来ます。数ある声楽曲の中から、最も自分に合った2曲を選択し、勝負に臨むことにしました。

ーーGWC2021の映像を拝見すると、2曲とも、録音された伴奏ではなく、生伴奏で口笛を演奏されているように見えます。

予選、本選、どちらも生伴奏です。楽曲にはカデンツァ(即興演奏)が含まれるため、お互いにタイミングを合わせながら演奏することが不可欠だったことに加え、生演奏ならではのライブ感を表現したいという意図がありました。

ーーしかし、GWC2021のルールでは、カメラ、マイクの台数はそれぞれ1台のみに制限されています。生伴奏の場合、口笛とピアノのバランスを取ることがかなり難しかったのではないでしょうか?

はい、実際のところ、10テイク近く、繰り返し録音して、最適なマイクの高さや位置を試行錯誤しました。2日間に亘って何度も生演奏に付き合ってくれたピアニストには本当に感謝しています。

6. 世界一の口笛奏者として

ーー世界一の口笛奏者として、今後、どのような活動を予定しているのかお聞かせください。

観客にオペラと口笛の両方を楽しんでもらえるような演奏形態を確立したいと考えています。実はすでにドイツで演奏依頼を頂いた際に取り入れ始めているのですが、とても好評なので、歌と口笛を組み合わせたレパートリーを更に増やし、自分の持ち味を最大化したいです。

また大学で教育学部を専攻していた経験から「教えること」が好きなので、口笛レッスンを通して口笛奏者の層を厚くすることにも貢献出来たらと考えています。特に、私は口笛の練習に本格的に取り組んでから、世界一になるまでに実に8年を要しました。その間、多くの挫折や、苦労、転機を経て、現在に至っています。その間に蓄積した様々なノウハウや経験を活かし、口笛を練習しても上達出来ず伸び悩んでいる方のサポートが出来たら嬉しいです。

松村祐甫(ホール演奏)

参考 松村祐甫YouTubeチャンネルYouTube

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