口笛に限ったことではありませんが、様々な大会やコンテスト、コンクール等の予備審査(予選、一次審査)として、音源審査が行われることが昨今、一般的となっています。
実際、口笛世界大会、おおさか国際くちぶえ音楽コンクール、The Masters of Musical Whistlingを含む、主要大会の全てで音源審査が採用されています。
そのため、大会に出場するためには口笛をレコーディングすることが必要となりますが、口笛特有の問題として、音が他の楽器に比べ小さく、息が音とともに前方へ吹きだす特性があることから、録音自体が難しく、プロのレコーディングエンジニアであっても満足のいく結果を得るためには相当な試行錯誤が必要となります。
このページでは口笛音源審査において、高得点を獲得し、本選への切符を得るためのノウハウについて解説したいと思います。
ライブ審査と音源審査の違い
審査員の前で演奏を行うライブ審査と、音源審査とでは決定的に異なることがあります。
それは自身の持つ潜在的実力で勝負出来るか否かということです。
ライブ審査の場合は、決められた日時、不慣れな場所で、多くの聴衆の前で緊張の中、演奏することが要求されます。当然、このような状況において実力の100%を出し切ることはほぼ不可能といえ、潜在的実力(真の実力)の大小以上に、自身が持つ力の何%を発揮出来るかが勝負の鍵になります。
一方、音源審査においては、自分が好きな時間に、好きな機材を使って、最もリラックスした状況で録音した演奏が評価の対象となるため、ライブ審査とは異なり、潜在的実力の大小で勝負が決まることになります。
上の図において、ライブでの演奏経験が豊富なAさんと、人前で演奏したことがほとんどないBさんを例にとると、ライブ審査においてはAさんが勝者となる一方、音源審査ではBさんが勝者となる可能性が高いといえます。
すなわち、音源審査はその奏者が持つ真の実力(潜在的実力)を評価するものであり、ライブ審査は会場で発揮される実力を評価するものということが出来ます。
また、一概にどちらがうまいとは言えないものの、Aさんはアーティスト・パフォーマー向き、Bさんはスタジオミュージシャン・クリエイターに向いた奏者といえます。
レコーディング品質も審査結果に影響
前のセッションでは、潜在的実力が高いほうが音源審査では有利と説明しましたが、実はもうひとつ重要な要素があります。
それはレコーディングの品質です。
音源審査の審査員はレコーディングの専門家では無いこともあり、録音された音の聴き映えで、点数が付けられることになります。
また仮に、審査員が録音に関する専門知識を保有していたとしても、レコーディングの品質が悪く、音自体が聞き取りづらいような録音では口笛の技量を正しく審査員に伝えることは出来ず、結果、予選落ちとなってしまう可能性があります。
すなわち、音源審査においては、口笛の実力だけではなく、レコーディングの良し悪しも大きく影響することを理解しておくことが大切です。
上の図では、口笛の技量が高いCさんであっても、レコーディングの品質が低いため、紫色の矢印で示した分しか審査員に技量が伝わらず、音源審査結果としては低い評価が付けられることになります。
一方、レコーディングが得意なDさんは、潜在的実力がCさんに劣っていても、自身の能力が十分に伝わる高品位な録音を行うことで、音源審査結果としてはCさんよりも高い評価を受けることになります。
口笛のコンテストなのに、録音の品質が悪く、予選落ちしてしまうというのは大変残念な話ですが、実際の音源審査においてはノイズが多く、音量調整もされていないような低品質な音源が送付されることは珍しくありません。
くちぶえ音楽院でも高品質な口笛の録音を実現するためのポイントを紹介していますので、是非参考にしてみてください。
特に、マイキングテクニックは口笛のレコーディングにおいて最も重要なポイントのひとつです。マイクに対し息が直接当たってしまうような録音では口笛の音色自体が非常に聞き取りづらく、前述のCさんのように実力が十分に審査員へ伝わらないと考えたほうが良いでしょう。
音源審査で正しく評価される目的であれば、必要以上に高品位な録音である必要は無く、機材も特に高価なものは必要ありません。
iPadやiPhoneだけで録音を完結させる簡易的な方法であっても、適切な方法で録音されていれば必要十分な品質に仕上げることは出来ます。
テイクを重ね潜在的実力を限界まで引き出す
潜在的実力の最大値(=ベストパフォーマンス)がわずか一回の録音で引き出せるとは限りません。
必ず何度も録音を繰り返して、一番良いテイクを音源審査用に送付するようにしましょう。
自分が安定的に発揮できる実力とは別に、たまにしか発揮できない「瞬発力」のような実力がありますが、音源審査においては何度でもやり直しが可能なので、必ず後者で勝負するように心掛けてください。
いつでも発揮出来る実力で評価してもらいたい、という方も多いかと思いますが、ライバルは当然のように何度もテイクを重ね、瞬発力で勝負することになるので、遠慮せず最高のパフォーマンスを録音することが大切です。
また、レコーディングに不慣れなうちは、マイクを通してヘッドホンからフィードバックされる自分の口笛の音に違和感を感じ、思うように演奏出来ないことがあります。そのような場合は、5回、10回、20回と録音を重ね、十分に慣れてから本番の録音を行うようにしましょう。
具体的なテイクの重ね方ですが、単に繰り返して録音するのではなく、一回録音したら必ず聴き直し、改善点を見つけ、その結果を次のテイクに生かす、というサイクルを繰り返すことが重要です。
その上で、録音した結果が、前のテイクよりも良いと感じたら保存し、悪いテイクであると感じたら迷わず破棄し、更にテイクを重ねます。
最低でも5テイク、レコーディングに慣れていない方は最低でも10テイクはこのサイクルを繰り返し、限界まで自分の潜在的実力を引き出してください。
審査員を意識した演奏と選曲
審査員が誰であるかは、通常、事前に公開されるため、個々の審査員がどのような背景なのかを事前に調査し、把握しておきましょう。
審査員が口笛の専門家なのか、音楽の専門家なのか、あるいは、音楽の専門教育を受けたことも無いただの有名人なのかによって、評価される基準は当然異なります。
口笛演奏では難しい高度な技術を披露しても、口笛に詳しくない審査員ではそれを正しく評価することは出来ないと考えるのが自然です。
逆に、口笛ではウォーブリング等の技術活用により、比較的簡単に誰でも吹けるパッセージであっても、音の遷移が非常に早く、他の楽器では非常に高度なテクニックを要するようなフレーズでは、口笛に詳しくない音楽の専門家からは非常に高い評価を得ることが出来る可能性が高いといえます。
高品質な伴奏と音響処理で音楽的完成度を高める
審査という観点においては「音楽的完成度」は一切考慮しないというのが「建前」ですが、実際に評価するのは人間ということもあり、音楽的完成度の高い音源のほうが口笛の音色はより美しく聴こえ、結果として、高評価に繋がることがあります。
一流料亭の料理であっても、それが紙皿に乗って出てきたとしたら、果たして美味しそうに見えるでしょうか?
同じことが口笛と伴奏についてもいえます。
低品質な自作の伴奏を使うよりは、プロが作成した美しい響きの伴奏を使ったほうが、総合的な完成度は当然高くなります。以下を参考に自身の演奏にあった良質な伴奏を入手して使用するようにしましょう。
また、リバーブ、ディレイ、エコーなどの、空間系の音響処理も口笛の音色の美しさを演出する効果があり、特にこれらは「場の演出」にも役立ちます。
人間の五感というものは極めてあいまいなもので、全く同じ料理であったとしても、小汚いお店で食べるのか、高級レストランで食べるかで、実際に感じられる「味わい」は大きく異なるものですが、同じことが口笛の演奏についても当てはまります。
但し、強すぎるエフェクトは逆に品位を下げ、評価の際に重要となる繊細なテクニックの聞き取りが難しくなるため、音源審査用であれば「素材を活かしたやや控えめの味付け」にするのがお勧めです。
審査提出前のチェックポイント
録音した音源を主催者に提出する前に、以下のポイントをもう一度チェックしてみてください。
- 録音レベル(音量)
市販楽曲を聴く時のボリュームのままで、十分に聞き取れる音量で録音されていますか? - ノイズ
口笛と伴奏以外の余計な音が混入していませんか?
ブローノイズの無い正しいマイキングで録音されており、口笛の音を明瞭に聞き取ることが出来ますか? - 伴奏
口笛の音色が引き立つような、シンプルで高品位な伴奏を使用していますか?
口笛の音量と、伴奏の音量のバランスは適切に調整されていますか?
自分が得意とする口笛の音域に合った伴奏を使用していますか? - 音響処理
リバーブやエコーなど、口笛の音色の美しさを演出する空間処理は行いましたか?
過度な音響処理により口笛の音の芯がボケ、聞き取りづらくなっていませんか? - フォーマット
前奏、後奏を含め、音源審査ガイドラインに規定される楽曲の長さになっていますか?
音源の提出媒体や、エンコーディング(圧縮形式)、拡張子はガイドラインに沿っていますか? - 選曲・演奏技法
審査員の背景を加味した自由曲の選曲、演奏技法がなされていますか?