このレッスンでは口笛でどのように音楽的なニュアンスを表現し、楽曲に情感を与えることが出来るのかについて解説します。
そもそも情感・感動とは何か?
世界で活躍する口笛奏者には皆、それぞれ際立った個性があり、早吹きを得意とする奏者、紙芝居や手品などの技術と組み合わせ総合芸術としての価値で勝負する奏者、あるいは、巧みなトークで場を盛り上げる才能に長けた方など、口笛奏者によってそれぞれの長所があります。
ただ、口笛を単なる「芸」ではなく「音楽芸術」として考えたときに最も大切にしなければならない要素・・・それはやはり「情感」ではないでしょうか。
「情感」というのは非常に曖昧かつ主観的な表現ですが、ここでいう情感とは「その楽曲を聴いたとき感動に至る要素の一部分としての不完全性」のことを指しています。
つまり、情感だけでは音楽としての価値は無く、情感があまりに強すぎてもいけませんし、逆に、一昔前の電子音楽のように譜面に正確で無機質な演奏では、観客に感動を与えることはありません。
あくまで正確なリズム、音程(ピッチ)、和声に裏打ちされた高度な技術の上に、若干のヒューマニズム≒揺らぎ≒不完全性が重なることによってのみ、聴く人の心に想いが届き、感動を与えることが出来るのです。
口笛奏者の心の底から紡ぎ出される「情感」そのものを解説するのは非常に難しいのですが、情感を演出する上で知っておくと役立つテクニックやコツがあることも確かですので、以下に紹介したいと思います。
フォールとは?
フォールは、楽曲に情感を与えるために口笛に限らず広く音楽の世界で用いられるテクニックのひとつです。
フォールには大きく分けて2種類ありますが、1つ目の方法は口笛音楽においては殆ど使われないため、このレッスンではより一般的な2つ目のフォールについて説明を進めます。
- 本来の音程よりも高い音を発音し、その後、滑らかに本来の音へ近づける方法(口笛音楽では殆ど使われない)
- 本来の音程を発音し、音の最終部分で滑らかに音を下げる方法(こちらが重要)
フォールの例を聴いてみよう
フォールがどのようなものなのかを理解するために、まずはフォールが演奏に多用されている以下の動画をご覧ください。
いかがでしょうか?
フォールが至るところに登場し、これによって楽曲に独特なノリが与えられていることが理解できたのではないかと思います。
フォールの役割
聴いて、感じて頂いたとおりですが、フォールには主に以下のような効果・役割があります。
- 楽曲にノリや疾走感を与える
- 突っ張った印象を与える
- 反骨心や怒りを表現する
- 落ち込んだ暗い気持ちを表現する
どれも似たような効果といえますが、ノリの良い楽曲では生真面目にピッチを安定させてしまうと不必要に堅くなり、楽曲と調和しなくなってしまうためそれを和らげる目的で、あえて音の最後のピッチを落としてずらす表現と考えれば分かりやすいと思います。
また、別れ歌などで落胆した気持ちを表現する場合にフォールを使うと、ノリとは逆の、強い喪失感のような印象を与え、効果的に情感を付与することが出来る場合があります。
しゃくりとは?
「しゃくり(=決り)」とは「フォール」のちょうど逆の表現で、こちらも2つの方法があります。
- 本来の音程よりも低い音を発音し、その後、滑らかに本来の音へ近づける方法(こちらが重要)
- 本来の音程を発音し、音の最終部分で滑らかに音を上げる方法(最近はあまり使われない)
口笛に限らず音楽業界で現在主流となっているのは前者で、後者は昭和のアイドルが多用し、可愛らしさを演出していましたが、現在は殆ど使われなくなっています。
しゃくりの例を聴いてみよう
口笛音楽におけるしゃくりを理解するために、まずは以下の動画をご覧ください。
こちらはフォールに比べるとやや分かりづらいかもしれませんが、楽曲の出だしの「ときには」の「き」、そのすぐ後の「おもいでゆきの」の「お」など、曲中で何度も「しゃくって」いることが分かると思います。
上で紹介した動画に限らず、ポップス楽曲ではごく一般的にしゃくりが使われています。
しゃくりすぎに注意!
しゃくりは名詞なので、しゃくりを行うことを一般に「しゃくる」と言いますが、しゃくりすぎること、すなわち、多すぎるしゃくりは曲の情感や品位を下げる要因となります。
特にカラオケが下手であるにも関わらず、歌に自信のある方の多くは「歌い出しの度にしゃくる」ことを「つい」してしまいますが、これでは情感以前に音楽として破綻し、例えるならば、ジャイアンのリサイタルのようになってしまいます・・・。
しゃくるべきところではしゃくり、しゃくるべきところでないところはしゃくらない表現を行うことが非常に重要なため、予め楽曲全体を楽譜で俯瞰し、ポイントを絞ってしゃくるようにしましょう。
その他のテクニック
今回は、フォールと、しゃくりを取り上げましたが、情感を演出するためのテクニックとしては他にも、ビブラート、ポルタメント、微分音の活用など、様々なテクニックがあります。
ビブラート・ポルタメント、微分音は、それぞれ独立したレッスンを用意していますので、以下も参考にしてみてください。